知の源流・未来の種と、「AI GDP」という新たな羅針盤
2026/06/28
知の源流・未来の種と、「AI GDP」という新たな羅針盤
国際金融情報をお届けする生放送で伝えるニュースと、大学・学術の世界が持つ深い知見。
この一見、速度の異なる二つの世界を融合させることは、私にとってゴールの見えない目標だった。
けれど、5年という歳月を積み重ねて、
ようやく『報道(メディア)×学術(アカデミア)の融合』という確かな形が、見え始めてきている。
個人の資産形成を考える上でも、グローバルマーケットを揺るがす地殻変動は、今や多くの人にとって最大の関心事だ。
例えば、現代の象徴である「AI社会」の潮流。
日本のマーケットでも「AI半導体」は主役のテーマとなり、関連企業の株価は力強い上昇基調にある。
いわば「AI半導体相場」の大きな波が押し寄せているわけだが、
この現象の『種(SEED)』は、すでに過去の学術界、つまり論文の世界に蒔かれていた。
「Attention is All You Need(必要なのは注意だけ)」
2017年、元Googleの研究者らによって発表されたこの一本の重要な論文。
これこそが、現在の「ChatGPT」をはじめとする生成AIの基盤技術「トランスフォーマー」の源流である。
深層学習(ディープラーニング)の基礎となるニューラルネットワークの一種であり、
データを高度に変換するこの技術が、数年後に世界市場を大化けさせる市場の"遺伝子"として、
すでに論文の世界に存在していたのだ。
今あるニュース(報道)と、過去の論文(学術)。
一見分断されているように見える二つの物語は、実は底流で一本の清流のように繋がっている。
さらに直近では、ワシントンD.C.に本部を置く、超党派の有力シンクタンク・PIIE(ピーターソン国際経済研究所)が公表した論文
『Where is AI in GDP statistics? Filling the measurement gap(GDP統計では見えないAI経済の実像―AI経済圏をどう測るか)』が、
国際金融市場の未来を占う上で極めて重要な一石を投じている。
AI経済は異例のスピードで拡大している。
しかし、現在の通常のGDP統計では、
その価値がクラウド、ソフトウェア、半導体、設備投資、研究開発などに
あちこちに分散して計上されてしまうため、AIが生み出す本当の付加価値や生産能力は見えにくい。
PIIEはこの「測定ギャップ」を埋める新たな枠組みとして、論文の中で「AI GDP」という新たな概念を提示した。
これもまた、数年後の世界経済を読み解くための大いなる羅針盤となるはずだ。
未来に社会実装される前段階の様々な「SEED(種)」は、常に論文の世界に数多く蒔かれている。
だからこそ、私は大学の授業でも、学生たちにこう伝えている。
「まずは毎日のニュースを確認し、今この瞬間の社会を知ることが大切だ。
けれど、今朝のニュースの賞味期限は明日には切れてしまうかもしれない。
一方で、経済学の基礎には賞味期限がない」
ニュースが「現時点で起きている現象(点)」を伝えるものであるならば、学問の基礎は「なぜその現象が起きるのかという構造(線と面)」を解き明かすもの。
100年前に定義された理論は、この先100年後の未来に宇宙経済が本格化した世界でも、本質的な形を変えながら生き残り続けるだろう。
ニュースを見ることで世の中の『表面』を捉え、
経済学の基礎を学ぶことでその解像度を一気に上げる『特殊なレンズ』を手に入れる。
学生にとって学問は「退屈な暗記物」ではなく、現実世界を読み解く「ガジェット(道具)」なのだ。
ニュースを毎日チェックして社会に蒔かれている『知の種』を拾い集め、
大学で学ぶ理論という土台の上で、その種を未来を見据える軸へと育てていく。
今まさにニュースで伝わる社会の最前線のリアルを、学術のレンズを通して彼らと共に読み解くこと。
それこそが、私が大学の教壇に立つ意義であり、
「生放送(メディア)× 大学(アカデミア)」の融合の姿であると信じている。
過去の知の遺産と、未来の予兆、そして今動いているマーケットの生放送。
そのすべてが交差する珠玉の場所で、これからも一人の表現者として、
視聴者の皆さんへ、そして学生たちへ、
「知の源流」を伝える大切なお役目を、しっかりと果たし続けていきたい。
蒔かれた種が芽吹く未来を、確かな言葉で紡ぎながら。
綴り手:鈴木ともみ
キャスター・エッセイスト

【プロフィール】
国士舘大学政経学部兼任講師、経済学修士、
早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員、日本記者クラブ会員記者、
国際金融情報番組『WORLD MARKETZ』(東京MXテレビ・STOCKVOICE)キャスター。
『Tokyo Financial Street』(STOCKVOICE)キャスター。
マイナビ「鈴木ともみのわかりやすい経済ニュース解説」、日経電子版、
日経QUICK等に経済コラムを連載。
地上波初の株式市況中継TV番組でキャスターを務めるほか、TOKYO-FM、
ラジオNIKKEIなどラジオ番組にも出演。
JazzEMPアンバサダー・メインMC。
総合芸術舞台『一粒萬倍 A SEED』アンバサダー・語り役。
パーソナルカラリスト。
☆ エッセイ【吉日のおかわり(五感で潤すオフ活のススメ)】
主な著書
『株式投資・新NISA 損をしない投資に大切な基本100』(アルソス刊)
『資産寿命を延ばす逆算力』(シャスタインターナショナル刊)
『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)
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