人生100年時代のライフプラン講座・第10回
2025/07/13
人生100年時代シリーズ(ライフプラン講座)
「介護する人とされる人、双方の人生を守るために」
~介護離職を防ぐには? 制度の活用と家族にできる準備~
介護が理由で離職する人は年間約10万人。家族の介護をしながら働いている人は約365万人と年々増加しています。介護の休業制度や公的な介護サービスが定着し、介護と仕事を両立しやすくなっているとはいえ、介護をしながら働くことは肉体的にも精神的にも大きな負担です。
家族に負担をかけないために、元気なうちに準備を始めましょう。
「要介護になったら…」と改まって家族に話すことには抵抗があるかもしれませんが、どこで暮らしたいか、どんな介護を希望するかを伝えておきましょう。
特に、介護費用は自分で支払うのが原則です。万一判断能力が衰えても、家族が資金を使えるよう準備しておくことも大切です。
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はじめに:介護が突きつける人生の選択
親の介護のために仕事を辞めるーーこれは、多くの働く世代が直面する可能性のある問題です。厚生労働省の統計によると、年間、およそ10万人もの人が介護を理由に離職しています。その多くは40代後半から50代の働き盛り。子育てや住宅ローン、老後の備えといった自身の人生の課題を抱える中、突然訪れる親の介護によって、人生設計が一変してしまうことも珍しくありません。
「親のことは自分が何とかしなければ」という気持ちと、「仕事は続けたい」「親と家族の生活を両方支えなければならない」という現実の板挟み――。こうした状況を乗り越えるには、気持ちだけでは難しく、制度や社会資源に頼るしか道はありません。
介護離職を防ぎ、介護する人とされる人、双方の人生を守るために、どのような選択肢と準備があるのかを、具体例とともにご紹介します。
【家族の介護・看護を理由とする離職者数等の推移】
出典;総務省「就業構造基本調査」(平成24年、29年、令和4年)
第1章:介護離職がもたらす影響とは
介護離職は、ただ「仕事を辞める」だけにとどまりません。その後の人生に色々な影響を与えます。
● 所得の喪失と老後資金の不足
● キャリアの断絶と再就職の困難さ
● 社会とのつながりの希薄化
● 精神的な孤立や燃え尽き
離職することで仕事も収入も失い、人生設計が根底から覆ってしまいます。そのうえ、職場など多くの人と関わりを持つ活動的な生活から介護中心に、生活も一変します。経済的な面だけでなく、精神的にもリカバリーが難しい状況に追い込まれていく可能性があります。
特に、女性が離職するケースが多く、再就職してもパート・非正規に限られ、経済的に不安定になるといった状況に陥ってしまうことが少なくありません。また、介護だけの生活は想像以上に過酷で、精神的にも追い詰められていくケースもあります。
こうした事態を避けるためには、仕事を辞める前に、どんな制度や支援が使えるのかを調べたり、周りの人に相談したりすることをお勧めします。
第2章:仕事と介護を両立するための制度
介護保険のサービスや介護のために仕事を休める制度など、介護する人が使える社会資源は増えてきました。離職してしまうと、後悔しても元には戻れません。利用できる介護サービスや制度を活用して、仕事と介護を両立する方法を検討しましょう。
介護は終わりが見えないだけに、短期的な頑張りで乗り切ることはできません。持久戦と考え、介護しながら働ける体制を自分の手で整えていくことが大切です。
介護しながら仕事を継続できるよう支援する制度を紹介します。以下に「育児・介護休業法」で定められている制度を挙げますが、企業によってはさらに手厚い支援があるところもあります。自分の状況に合わせてどのような制度が利用できるか、人事労務担当部署に相談してみてください。
● 介護休業制度(最大93日)
要介護状態の家族1人につき、通算93日まで休業を取得できる制度です(原則として3回まで分割可能)。
この期間は無給ですが、一定の要件を満たせば、雇用保険から「介護休業給付金」(休業前賃金の67%程度)が支給されます。
93日では短すぎると思われるでしょうが、これは介護休業の目的が自ら介護をすることではなく、休業期間中に仕事と介護を両立できる体制を整えることにあるからです。復職後に仕事が継続できるよう、この間に介護方針を立て介護サービスの利用や家族の関わり方など具体的なプランを決定しましょう。
【活用例】
・入退院や手術後の一時的な在宅介護
・地域包括支援センター、ケアマネジャーなどとの相談
・介護サービスや施設探しの準備期間
・認知症の初期対応やケアプラン調整
・家族内での介護の分担の相談
● 介護休暇制度(年5~10日)
要介護状態の家族が1人であれば年に5日まで、2人以上の場合は年に10日まで取得できる短期的な休暇制度です。
1日単位・時間単位で取得できるため、通院の付き添いや書類手続き、急な対応に柔軟に使えます。
【活用例】
・デイサービスの体験同行
・施設見学
・介護認定の申請手続き・訪問調査の立ち会い
● 時間外労働の制限・短時間勤務制度
介護中の従業員には、残業や深夜勤務の免除・制限を申請する権利があります。また、介護が継続する場合、一定期間の短時間勤務(フレックスタイム制度、時差出勤など)も可能です。
【活用例】
・朝夕の介助が必要な家庭で、時差勤務を希望
・通院や訪問サービスにあわせて出勤時間を調整
第3章:制度を“実際に使う”ためのポイント
1.職場の制度を確認する
第2章で紹介した支援制度は法律で定められているものですが、企業によっては法律を上回る制度を設けている場合もあります。実際の手続きの流れや細かい要件なども含めて就業規則を調べ、不明な点は人事労務担当部署に確認しましょう。早めに相談することが大切です。
2.介護休業の分割取得を活用する
制度の柔軟な使い方もカギです。例えば、「まず30日間介護休業を取得し、介護認定の申請、在宅介護サービスの選定と手続きを行い、介護体制が軌道に乗るまで様子を見る」、次は症状が重くなったときに、「施設の選定と入居準備のために取得する」といった分割取得が効果的です。。
介護休業は短い期間とはいえまとまって休むことができ、給付金も受けられます。自分が介護をするための時間ではなく、仕事も介護も続けられる体制を整えるために使いましょう。
3.社内の介護経験者や上司に打ち明けておく
制度はあっても、いざとなると「言い出しにくい」という心理的ハードルが大きいのが実情です。職場に介護を経験した人がいれば、話を聞いて情報を得ておくことをおすすめします。
家族の介護が必要になったときは、すぐに上司相談し、職場の仲間の理解と協力を得られるように努めましょう。家族の状況や仕事に対する自分の考えもしっかり伝えてください。介護は誰もが直面する可能性があり、他人事ではありません。職場の理解があると精神的な負担が軽減され、仕事と介護の両立への大きな力となります。
第4章:介護者自身のセルフケアを忘れないこと
介護はいつ終わるかの見通しが立たないうえ、介護が終わる時は大切な家族を亡くす時でもあります。
在宅での身体介護はかなりの時間と体力を必要とします。家族への想いだけで慣れない介護に奮闘するとなおさら疲弊します。介護をひとりで抱え込まず、介護保険のサービスを利用し、プロに任せられるものは任せるようにしましょう。
介護する側の疲労は、身体だけでなく心にも深く及びます。
・「やってもやっても終わらない」
・「誰にも感謝されていない気がする」
・「イライラして自己嫌悪になる」
こうした感情は自然なものです。だからこそ、セルフケア=自分を守る工夫が不可欠です。
● セルフケアの工夫
・ 1日15分でも「自分のための時間」を作る(読書、音楽、散歩など)
・ 月1回は「介護から離れる日」を設ける(ショートステイなどを活用)
・ 感情を言葉にして吐き出す(介護者カフェ・日記・家族会)
介護をする中でも自分の時間を確保することを忘れないでください。そのために介護サービスを利用しましょう。介護される人も、家族が幸せでいることを願っているはずです。
● 地域や支援者とつながる
・ 介護の困り事や気付いたことはケアマネージャーや地域包括支援センターに相談する
・ 認知症カフェや介護者のつどいに参加し、同じ立場の人と交流する
・ SNSや介護ブログで気軽に共感と知恵を得る
介護についてひとりで考え込んでいると悲観的になりがちです。困ったことがあったら、ケアマネージャーなど介護の専門家に相談しましょう。解決策を提案してくれます。また同じ立場の人や経験者と話をすることも有効です。「自分だけが頑張っている」という孤立感を減らすだけで、心の負担は大きく変わります。
第5章:介護者の負担を減らす“もう一つのカギ"~高齢者自身の準備
実は、介護する側の負担は、「介護される人の準備」によっても大きく変わります。突然の介護で心身ともに疲れ切っているお子さんに、せめてお金の心配は掛けないように備えておきましょう。
準備のポイントは次の2つです。
①介護費用を本人の資金で賄えるようにしておくこと
②医療や介護に対する希望を家族に伝えておくこと
介護費用は、本人の年金と貯蓄で賄うことが原則です。資金に余裕があれば、施設に入居する際の選択肢も広がるうえ、介護保険対象外でも自費でヘルパーを依頼するなど介護者の負担を軽くすることもできます。お金で解決できることは多いのです。
まず、自分の資産を整理し、万一の場合に家族が利用できるようにしておくことが必須です。
しかし、本人に十分な貯蓄があっても、認知症などで判断力がなくなると、本人の意思が確認できず使うことができません。認知症の心配がある場合は、早めに対策を考えておきましょう。
● 財産管理や契約をどうするか
判断力が低下すると、定期預金の解約、施設との契約、不動産の売買などを行うことができなくなります。本人のお金や資産であっても本人のために使うことができなくなるのです。そのとき家族が困らないよう、次のような制度があります。
・成年後見制度(任意・法定)
判断能力が低下した人について、家庭裁判所が選任した後見人等が財産管理や介護サービスの契約などを行い、本人の権利を守りながら生活を支援する制度です。
元気なうちにあらかじめ本人が家族などを後見人に選んでおく任意後見制度もあります。
・民事信託(所謂「家族信託」)
資産を持っている人が、自分の老後の生活・介護等に必要な資金の管理及び支払いなどの目的のために、保有する資産(不動産・預貯金等)を信頼できる家族に託し、その管理や処分を任せる仕組みです。どの資産を誰に託すかなど自由に決められます。
ただし、家族の間が円満でコミュニケーションがとれていれば、これらの制度の利用は必要ないケースも多く、何がベストかはそれぞれのご家族によって違います。お金の話はしづらいものですが、相続も考慮して親子で資産状況を共有しておくことが大切です。必要に応じて、ファイナンシャル・プランナーなど専門家に相談することをおすすめします。
● 自分の希望を家族に伝えておく
・ 延命治療は希望するか
・ 自宅介護と施設介護、どちらを望むか
・ どんな生活を送りたいか等々
こうしたことを元気なうちに共有しておくだけで、家族の迷いや家族間での対立が減り、介護における精神的負担が軽減されます。子どもの側からは言い出しにくいことなので、お正月などのイベントで家族が集まる機会に、親のほうから話をするとよいでしょう。エンディングノート等を利用して文章化しておくことも役に立ちます。
おわりに:「介護離職をしない」選択をしやすくするために
介護のために退職することは、けっして間違いではありません。
しかし、「ほかに方法がなかった」「制度を知らなかった」といった情報やコミュニケーション不足による離職は、本来避けられるはずのものであり、介護する人の未来の可能性を狭めてしまう決断でもあります。
「介護する人も、される人も、自分の人生を諦めない」ために必要なのは、情報と制度、そして「専門家や周りの人に頼っていい」という意識の転換です。
介護を自分一人で背負わないこと。介護される人も、介護する人が自分の人生を犠牲にすることを望んではいないはずです。職場や地域社会など周りにいる私たちも、いつ自分が介護の当事者になるかわかりません。介護の問題を“自分事”として、社会全体で取り組む姿勢をもちたいものです。
【参考資料】
平成29年度版「仕事と介護 両立のポイント あなたが介護離職しないために」厚労省
〇概要版
〇詳細版
【用語解説】

<執筆者> 松岡佳也(まつおか・よしや)
ファイナンシャル・プランナー

約20年前、銀行で投資信託を購入して投資デビュー。
以来、資産の上下で一喜一憂も継続中。
若者の人生に寄り添いたいと日々奮闘している。
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